開業ノウハウ

教室・スクール開業を安全に進めるには?無料相談窓口や資金調達方法についても解説

開業ノウハウ

昨今、大人向けのカルチャースクールや子ども向けの習い事市場など、さまざまな習い事関連の市場規模は広がりを見せています。(引用元:カルチャーセンター市場に関する調査を実施(2023年)

需要の高まりに対して、現在独立しての教室・スクールの開業を考えている方も多いのではないでしょうか。この記事では、これから教室やスクールの開業を考えている方向けに、開業に関連した手続きや、相談できる公的機関を解説します。ぜひ参考にしてみてくださいね。

教室・スクール開業時に提出が必要な書類と提出先

まず、開業とひとくちにいっても個人と法人によって手続きが異なります。国税庁が公開している記事「個人で事業を始めたとき/法人を設立したとき」では個人と法人それぞれの開業にあたって必要な書類を解説しています。必要な書類はこちらを参考に用意するともれなく安心に提出することが可能でしょう。

個人事業主の場合

対象届出の名称提出先提出期限
事業を始めるとき個人事業の開業・廃業等届出書納税地の所轄税務署開業の日から1か月以内
所得税の棚卸資産の評価方法の届出書最初の確定申告書の提出期限まで
所得税の減価償却資産の償却方法の届出書最初の確定申告書の提出期限まで
青色申告で申告したい人所得税の青色申告承認申請書開業の日が1月1日から1月15日までの場合は3月15日まで、開業の日が1月16日以降の場合は、開業の日から2か月以内
青色事業専従者給与を支払う場合青色事業専従者給与に関する届出書
従業員に給与を支払う人給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(※)給与支払事務所等の所在地の所轄税務署給与支払事務所等を設けてから1か月以内
源泉所得税の納期の特例を受ける人源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書随時(給与の支給人員が常時10人未満の場合)
開業時から適格請求書発行事業者の登録を受けたい人適格請求書発行事業者の登録申請書納税地の所轄税務署開業した年の12月31日まで
国税庁が公開している記事より引用

※個人事業の開業・廃業等届出書に給与等の支払の状況を記載した場合は、提出は不要です。

  • 注1:上記提出期限が土曜日、日曜日、祝日等の場合は、その翌日が期限となります。
  • 注2:消費税について、新規開業年とその翌年は、原則として免税事業者となります。
    なお、免税事業者であっても、「消費税課税事業者選択届出書」を提出することにより課税事業者となることができます。
    また、適格請求書発行事業者の登録を受けている間は、免税事業者となることはできません。
    「消費税のしくみ」参照)

引用:個人で事業を始めたとき/法人を設立したとき(国税庁)

法人を設立したとき

法人登記終了後に「法人設立届出書」を提出してください。そのほかにも、税法上の諸制度を利用する場合には、次のような届出も必要となります。

対象届出の名称提出先提出期限
法人を設立したとき法人設立届出書(※1)納税地の所轄税務署法人設立の日以後2か月以内
棚卸資産の評価方法の届出書最初の事業年度の確定申告書の提出期限まで
減価償却資産の償却方法の届出書最初の事業年度の確定申告書の提出期限まで
役員や従業員に報酬、給与を支払うとき給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書給与支払事務所等の所在地の所轄税務署給与支払事務所等を設けてから1か月以内
源泉所得税の納期の特例を受けるとき源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書随時(給与の支給人員が常時10人未満の場合)
青色申告で申告したいとき青色申告の承認申請書納税地の所轄税務署法人設立の日以後3か月を経過した日又は最初の事業年度の終了日のいずれか早い日の前日まで
資本金の額又は出資金の金額が1,000万円以上のとき消費税の新設法人に該当する旨の届出書(※2)速やかに
設立時から適格請求書発行事業者の登録を受けたいとき適格請求書発行事業者の登録申請書最初の事業年度の終了の日まで
国税庁が公開している記事より引用
  • ※1 添付書類として、定款等の写しの提出が必要となります。
  • ※2 法人設立届出書に消費税の新設法人に該当する旨を記載した場合は、提出は不要です。
  • 注1:上記提出期限が土曜日、日曜日、祝日等の場合は、その翌日が期限となります。
  • 注2:消費税について、法人の設立事業年度とその翌事業年度は、新設法人に該当する場合等を除き原則として免税事業者となります。
    なお、免税事業者であっても、「消費税課税事業者選択届出書」を提出することにより課税事業者となることができます。
    また、適格請求書発行事業者の登録を受けている間は、免税事業者となることはできません。
    「消費税のしくみ」参照)

引用:個人で事業を始めたとき/法人を設立したとき(国税庁)

社会保険と公的年金の切り替え

いままで会社員だった方が個人事業主として教室・スクールの開業をする場合、以下の2点の手続きを忘れないようにしましょう。

  1. 健康保険の切り替え
  2. 国民年金へ加入する

健康保険の切り替え

会社員として働いてた方が独立して開業する場合、いままで会社で加入していた健康保険から切り替えて、自身で国民健康保険に加入する必要があります。国民健康保険の保険料は高く、所得に比例するため「収入が上がると保険料も上がる」という点も事前に覚えておきましょう。

もう一つの方法として、同業者で構成される各種組合に加入し、「国民健康保険組合(国保組合)」を利用する方法もあります。国保組合は保険料が一律になるため、高収入になれば国民健康保険よりも保険料が割安になります。

国民年金に加入する

今まで会社員だった方が、これから個人事業主として、教室・スクールを開始する場合、厚生年金からの脱退手続きは所属していた会社側が行ってくれます。そのため、お住まいの地域の役所へ向かい、国民年金への加入手続きをしましょう。

参考記事:国民年金関係届書・申請書一覧(日本年金機構)

労働保険への加入

開業時に必ず行う必要はありませんが、法人・個人事業主に関わらず、従業員を1人でも雇った場合、労働保険加入の必要性が生じます。

労働保険は労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険を総称であり、正社員・パート・アルバイトなど雇用形態にかかわらず、労働者を一人でも雇っている場合は手続きが義務付けられています。

労働保険の手続きは、事業所の事業内容によって、この記事で紹介している提出先や提出書類が異なる場合があります。まずはお近くの労働基準監督署またはハローワークまでお問い合わせください。

参照元:労働保険とは?(厚生労働省)

労働保険の種類

労働保険には労災保険雇用保険の二種類がありますが、それぞれ要件が違うため注意しましょう。

労災保険とは

一人でも労働者を使用する事業は、例外なくすべてに労災保険が適用されます。

労災保険においての労働者は「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義され、労働者であればアルバイトやパートタイマーなどの雇用形態は関係ありません。

そのため、開業時に一人でも労働者を雇用する場合、労災保険が適用されます。

概要

労働者が仕事中や通勤途中に起きた出来事に起因したケガ・病気・障害、あるいは死亡した場合に保険給付を行う制度です。略して労災と呼ばれています。

ケガや病気を対象とした社会保険としては健康保険が挙げられますが、労災保険の対象は業務上および通勤途上に発生した事案のみとなります。労災保険の補償対象となると、健康保険のような治療費の自己負担が必要なく、さらに休業時の手当も手厚くなっています。なお、労災保険の保険料は、健康保険や厚生年金保険と違い、全額を事業主が負担します。

必要書類と提出方法

提出先

会社の本店所在地を管轄する労働基準監督署

必要書類
  • 労働保険 保険関係成立届
  • 労働保険概算保険料申告書
  • 会社登記簿謄本
  • 従業員の賃金台帳
提出期限

「労働保険 保険関係成立届」および「労働保険概算保険料申告書」の提出期限は、従業員の雇用開始日の翌日から10日以内です。また、「労働保険概算保険料申告書」で申告された概算保険料は、保険関係成立の日から50日以内に納付する必要があります

注意点

労災保険の加入手続きは、事業者本人で行うことが可能ですが、専門家に手続きを依頼する場合は「社会保険労務士に依頼しなければならない」と法律で定められているので注意しましょう。

参照元:労災補償(厚生労働省)

雇用保険とは

雇用保険は労災保険と異なり、会社と従業員の両方が負担する労働保険です。従業員を一人も雇わない場合、雇用保険の加入は必要ありません。

次の労働条件のいずれにも該当する労働者の方は、原則として全て被保険者となります。労災保険における労働者の定義と異なるので確認しておきましょう。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 31日以上の雇用見込みがあること

また、パートやアルバイトなど雇用形態や、事業主や労働者からの加入希望の有無にかかわらず、要件に該当すれば加入する必要があります。(季節的に一定期間のみ雇用される方など、一部被保険者とならない場合があります)

引用元:雇用保険制度> Q&A~事業主の皆様へ~

概要

労働者の生活や雇用の安定、就職の促進のために、失業された方や教育訓練を受けられる方などに対して、失業等給付を支給する制度です。失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進等をはかるための二事業を行う制度となっています。

必要書類と提出方法

雇用保険の加入手続きには、労働基準監督署で交付される「労働保険 保険関係成立届」の控えの提出が必要です。そのため、雇用保険の加入手続きをする前に、まずは労災保険の加入手続きを完了させましょう。

提出先

事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)

必要書類
  • 雇用保険適用事業所設置届
  • 雇用保険に加入する方、全員分の雇用保険被保険者資格取得届
  • 労働保険 保険関係成立届の控え
  • 会社登記簿謄本(発行3カ月以内の原本)
  • 法人税確定申告書別表一
  • 労働者名簿
  • 出勤簿またはタイムカード
  • 労働者賃金台帳
  • パートタイマーの雇用契約書または雇入通知書
提出期限

雇用した日の属する月の翌月10日まで

注意点

雇用保険の加入を怠った企業には、雇用保険法83条1号により「懲役6カ月以下もしくは罰金30万円が科せられる」可能性があります。

参照元:雇用保険制度(厚生労働省)

教室・スクール開業時に関しての相談先の紹介

教室・スクールを開業をする際には、多くの書類を提出する必要がありとても大変です。さらに資金を調達する必要もあるので、ひとりで進めるというのは不安に感じる方も多いでしょう。

普段の生活ではあまり馴染みがありませんが、実は開業に関する相談を無料で受け付けている公的機関や地域の支援機関は多くあります。

無料相談可能な公的機関や地域の支援機関の一例

  • 税務署
  • 商工会・商工会議所
  • 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
  • 日本政策金融公庫
  • よろず支援拠点

税務署

上記で解説しているように、開業にあたっては、法人設立届出書や開業届、青色申告承認申請書など、税務署へのさまざまな届出が必要になります。そのほかにも税務署では、開業時の手続きや、税金の仕組み、確定申告の方法などの相談窓口を設置しています。

開業後は、法人であれば法人税や法人事業税などの税金を納めることになります。このような届出や税務に関する相談、記帳や帳簿の保存方法について不明点があるときは、納税地を所轄する税務署に相談するといいでしょう。

税務署への相談は、面談と電話でそれぞれ可能です。税務署窓口での相談には事前予約が必要ですが、国税に関する相談は国税局電話相談センターでも受け付けています。

確定申告の時期である2〜3月は混み合うため、確定申告の時期を回避して相談するのがよいでしょう。

商工会・商工会議所

商工会・商工会議所は、地域経済の活性化や中小企業を支援することを目的に活動する、特別認可法人の非営利団体です。一定の地区内の商工業者によって構成されており、会員制になっています。商工会議所の会員になるためには地域ごとに条件があるので、地域の商工会議所の窓口やWebサイトで確認しておきましょう。

商工会・商工会議所の起業相談では、税理士や司法書士などの専門家に、会社設立の手続き方法、事業計画の立て方、事業計画書の作成方法、資金調達方法、販路の開拓方法など開業・事業拡大に関する相談が可能です。

独立行政法人 中小企業基盤整備機構

中小機構では、起業・創業期、成長期、成熟期などの企業のステージに合わせてさまざまな支援サービスを提供しています。経営相談、専門家派遣、人材育成、情報提供、資金提供も行なっています。
また、共済制度を設けているほか、震災復興支援に関する支援も行っています。

参照元:中小機構とは

日本政策金融公庫

日本政策金融公庫は、国が100%出資している政府系金融機関です。全国に152支店があり、個人事業主や小規模事業者・中小企業を対象に融資を行っています。また、「創業前支援」として起業相談も行っています。事業計画の作成・資金調達・会社設立・許認可の手続きなど、起業に関する幅広い疑問について専門の担当者から支援を受けることができます。

窓口だけでなく、オンラインや電話での相談が可能なのと、土日祝日での来店相談も事前予約すれば可能です。
参照元:日本政策金融公庫「政策金融機関の業務の概要」

よろず支援拠点

「よろず支援拠点」は、国が日本全国に設置した無料の経営相談所で、中小企業や小規模事業者向けのサービスを提供しています。支援拠点は、全国47都道府県にあり、経営上のさまざまな悩みに対応しています。中小企業基盤整備機構とも連携している点も特徴です。

主に、従業員数5人以下の会社からの相談が多く、何度でも無料でアドバイスを受けることができます。よろず支援拠点では、創業、売上拡大、経営改善、事業再生、継承など、経営上の課題について、多岐にわたる専門家からのアドバイスが提供されます。また、課題に応じた支援機関を紹介するなど、一貫したサポートが特徴です。

相談を希望する場合は、事前に電話、メール、またはWebフォームなどで予約が必要です。よろず支援拠点のWebサイトでは、各地の拠点やコーディネーターの情報のほか、支援事例も紹介されているため、相談前の参考になるでしょう。

参照元:よろず支援拠点とは

都道府県ごとの独自の支援

上記以外にも都道府県ごとに独自の取り組みをしている場合もあります。例えば、東京都では以下のような施設・サービスを提供しています。(引用元:東京都創業NET

  • TOKYO創業ステーション
  • TOKYO創業ステーションTAMA
  • Startup Hub Tokyo
  • 東京開業ワンストップセンター
  • 東京圏雇用労働相談センター
  • 東京ビジネスサポートプラザ
  • 東京都企業立地相談センター
  • 創業アシストプラザ(東京信用保証協会)
  • 起業相談チャットボット「起業ライダーマモル」

開業の手続きを進める前には、事前に都道府県ごとの公的機関や地域の支援機関を調べておくと安心して開業を進めることができます。時期や事業の内容によっては補助金の対象となる場合もあるので、あわせて調べておくとよいでしょう。

まとめ

この記事では教室・スクールを開業をする際に必要な提出書類や、無料で相談できる公的機関を紹介しました。支援が充実している一方、事業内容の解像度が漠然としていると、アドバイスも曖昧なものになってしまいます。開業の相談をするときには、質の高い相談を受けられるように、何を知りたいか、何が不安なのかを具体的に伝えるようにしましょう。